(1)「お母さん、もう少し大人になりな(注1)、お父さんくらいに」 私の背中に6歳の息子が言った。自転車の後ろに乗せ、幼稚園に向かう途中のことだった。ドキッとした。 確かに私は一日中、3人の子どもに片づけ(注2)をしなさいとか、宿題をやってしまいなさいとかうるさい。頭に来ると子どもと同等(注3)になってけんかをしている。それに比べ夫はその様子を少し離れて見ていてたまに口出し(注4)するくらいで大人なのだ。 それにしても幼稚園児(注5)の言うことにしては立派過ぎる。「大人って 」と聞いてみた。 すると、後ろから私の体に手を回して「ほら、お母さんこんなに小さいよ。もっと大人になってお父さんくらい大きくなって!」。なーんだ体の大きさのことだったんだ。 私は「大人だって小さい人はいるよ。ほら、おばあちゃんなんて大人なのにお母さんより小さいよ」と投げかけた。 「あのね、おばあちゃんはぼくが生まれる前、大人だったんだよ、でもね、今はおばあちゃんになって縮んだの」。①うーんなるほど。 初めは「大人になりな」なんて言われて反省し、次はおばあちゃんを大切にしなければと考えさせられた。 幼稚園に着いた。息子は手を振り、門をくぐって(注6)行く。②後ろがいつもより大人びて(注7)見えた。 (上西紀子「ひととき」2001年11月3日付朝日新聞による)(注1)なりな:なりなさい(注2)片づけをする:片づける(注3)同等「どうとう」:同じ程度(注4)ロ出し「くちだし」:他の人の話に横から何か言うこと(注5)(幼稚園)児「じ」:(幼稚園の)児童(注6)くぐる:下を通って抜ける(注7)大人びて:大人のように
筆者は最初「大人になりな」という言葉をどのような意味だと思ったか。
A.子どもに対して立派なことを言って、子どもに尊敬されるようにという意味
B.子どものようにすぐ感情を表さないで、常に冷静でいるようにという意味
C.子どもと同等の立場で、子どもの気持ちをよく理解するようにという意味
D.自分の意見を持って、子どもの行動によく口出しするようにという意味