第一篇最近の人間は何をしたいか自分でも分からないという。それはヨーロッパでもアメリカでも日本と同じようである。西欧のいくつかの大学を訪れてみたが、そこでいつも 何かがしたいが何をしたいかわからない ということを若者たちから聞いた。このことについてはヨーロッパから帰ってきた時すでにいろいろのところに書いた通りである。ではところでどうして自分でも自分が何をしたいかかわらないのだろうか。一口で言えば人間が①ぜいたくになったからである。つまり 何かをしたい ということは同時に 何かを捨てる ということであるのだ。人間は常に矛盾した欲望を持っている。Aと言う欲望はBという欲望と両立しない。両立しないけど二つの両立しない欲望を持っているということは人間の事実である。(中略)したがって 俺はこれをしよう 俺はこれがしたい ということは同時に「俺はこれをあきらめる」ということであるのだ。②グズな人間というのはこのあきらめるということができない。(③)何をしようとしても、それと両立しない他の欲望がそれをセーブしてしまう。④+の欲望と-の欲望が一緒になってゼロになってしまうのである。あれもこれもと欲ばるからこそ、いったい俺は自分でも自分が何をしたいのか分からなくなってしまう。
この文章で筆者が言いたいことは何か。
A.最近の若者は何もしたいものを持っていない。
B.なるべく矛盾した欲望を持たないようにしなければならない。
C.他の欲望をあきらめることによって何かしたいことが決まってくる。
D.最近の人間はぜいたくになったのであまり欲望を持たなくなった。