参考答案：文章9私が生まれた家庭は芸術的な空気に包まれていた。父は画家で、幼い私に芸術的な教養を身につけさせようと、ダンス、音楽、書道などの習い事をさせた。ただ好き、というよりも、父から受けついだ全身に流れる血のせいか、私は絵画に天賦の才を受けたようだ。高校では、美術専攻を志望し、芸術の道へ、はずむ足取りで一步を踏み出した。絵画の創作は苦しいことでもある。劣悪な生活条件の農村に行き写生をする時は、一カ月もそこに住みこむ。蚊に刺され、風に吹かれ、強い日射しにさらされ、気分がめいってくる。そんな時いつも、汗を流しながら創作に熱中する父の姿が脳裹に浮かんできた。高校一年のある夏、父が全国美術展に出品することになった。父はそのために太行山脈を步き回った。そこにはどれほどの父の足跡が残っていることだろう。戻って来ると、父は小さなアトリエにこもり、休むことなく創作を続けた。食事の時間も忘れてしまうので、母はいつも私を呼びにいかせ、私はいらいらしながら窓の外から叫んだ。ある日、どのくらい出来たかのか見たくなり、アトリエに向かった。狭く暗い廊下を進んでいくと、奥のドアの隙き間から一筋の光がさしている。ドアをあけると、キャンバスの前に座っている父の汗だくの背中がみえた。床には使い古した絵筆と絵の具のチューブが散らばっている。私がそばに近寄っても、父は気がつかない。この瞬間、不思議な感動におそわれた。芸術の道では、私には父の背中だけがみえる。私にもっと良い創作ができれば、父を追い越すことができるだろう。なぜなら私は父の娘なのだから。名門校への進学を目指す段になって、心ではその道が遠くて長いことがよく分かっていた。でも一歩一歩努力するしかない。高校三年の時、私は荷物を背負って上京し、大学入試予備クラスに入った。便利で、安いということで、私は学校からそう遠くない地下室に住むことにした。地下室での生活はまったく耐え難いものだった。冬は寒くてじめじめし、本のページさえ、湿気でいつもシワがよっているほどだった。冬の深夜、外では強風が吹き荒れ、地面に近い窓に、吹き飛ばされた小石やゴミがあたって音をたてていた。夜は、いつも真上の階の水洗トイレの音で目が覚め、ごく薄い天井板の上の排水管に汚水が流れていく音が聞こえた。厳寒の時には、私と同室の友はベッドを寄せて、互いの体温で体をあたためた。地下室には私のような受験生がたくさんいて、なかには何年も続けて不合格になり、それでもまだ努力している若者もいた。彼らと一緒にいると、勉強への熱意が燃え上がり、暖かい家庭にいるより、自覚がわいてきた。時間は流れるように過ぎ去り、苦しい補習も、大学入試もすべて終わった。焦りの日々のなか、ついに清華大学からの合格の通知が、美しい蝶々のように手元に届いた。長年の夢がついに現実となったのだ。